デジタル遺産の相続|ネット銀行・暗号資産の注意点

「父の通帳はひととおり探したのですが、どうも生活費の出どころが見つからないんです」。ご相談のなかで、こうしたお話を聞くことが増えました。調べていくと、年金の受取や公共料金の引き落としが、通帳のないネット銀行に集まっていた——というケースです。

通帳もキャッシュカードも郵便物も残らない財産を、ここではデジタル遺産と呼びます。金額の大小にかかわらず、「家族が存在に気づけない」という点で、相続の手続きをいちばん止めやすい財産です。今回は、ネット銀行・ネット証券・暗号資産について整理します。

目次

デジタル遺産とは——「通帳のない財産」のこと

デジタル遺産という法律上の定義はありません。実務では、次の3つに分けて考えると整理しやすくなります。

  • 財産そのものがデジタルなもの:ネット銀行の預金、ネット証券の株式・投資信託、暗号資産、電子マネーの残高
  • 財産の手がかりだけがデジタルなもの:明細やお知らせがメールやアプリにしか届かない口座・契約
  • 財産ではないが後始末が必要なもの:サブスクリプション、SNSのアカウント、クラウドに預けた写真

相続税がかかるもの・かからないもの

ネット銀行の預金、ネット証券の有価証券、暗号資産は、いずれも相続税の課税対象です。「ネット上のものだから対象外」ということはありません。一方、航空会社のマイルやお店のポイントは、規約で相続や譲渡を認めていないものが多く、その場合は課税対象になりません。ただし所定の手続きで承継できるものもあるため、規約の確認は必要です。

注意:「パスワードが分からないから申告しなくてよい」という理屈は通りません。財産が存在するかどうかと、家族が今それを使えるかどうかは別の話として扱われます。取り出せない財産にも相続税がかかる可能性がある、という点がデジタル遺産のいちばん怖いところです。

最初につまずくのは「見つけられない」こと

通帳や郵便物という手がかりがないと、相続人はそもそも口座の存在を知ることができません。遺産分割の話し合いも相続税の申告も、財産が確定しないと前に進みません。相続税の申告と納付の期限は10か月ですので、財産探しに何か月もかけられる余裕はありません(期限の全体像は「相続手続きの期限は4つ」の回で整理しています)。

手がかりを探す3つの入口

  1. 使っていた口座の入出金明細:他行への振替、クレジットカードや証券会社への引き落としから、別の金融機関の存在をたどれます
  2. メールと年に一度の郵便物:ネット銀行やネット証券も、取引残高報告書などを年1回は書面で送っていることがあります
  3. 確定申告書・住民税の通知:配当所得や特定口座の記載から、取引先の証券会社が分かることがあります

制度として使える照会もあります

  • 生命保険:生命保険協会の「生命保険契約照会制度」を使うと、加盟する生命保険会社全社に契約の有無をまとめて照会できます(有料。分かるのは契約の有無までです)
  • 上場株式・投資信託:証券保管振替機構(ほふり)の「登録済加入者情報の開示請求」で、口座を開いている証券会社や信託銀行の一覧が分かります(有料。銘柄名・残高・取引履歴は分かりません。2026年10月1日に費用が改定される予定です)
  • 預貯金:全国の銀行をまとめて照会する制度はありません。心当たりのある金融機関に、相続人が個別に残高証明書を請求します
  • 暗号資産:一括照会のしくみはありません。メールやアプリの履歴から取引所を特定し、各社の相続手続きの窓口に連絡することになります

暗号資産は「評価」と「売ったあとの税金」でつまずく

相続税の評価は、亡くなった日の価格

国税庁が公表している「暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(FAQ)」では、活発な市場が存在する暗号資産は、相続人が取引を行っている暗号資産交換業者が公表する課税時期——つまり亡くなった日——の取引価格で評価するとされています。活発な市場が存在しないものは、売買実例価額などを参酌して評価します。

ポイント:相続税は亡くなった日の価格で決まります。その後に値下がりしても、相続税が下がることはありません。値動きの大きい財産を多く持っている場合は、納税資金をどこから出すかを先に考えておく必要があります。

相続人が売ったときは「雑所得」になります

2026年8月時点では、暗号資産を売却して得た利益は、原則として雑所得(総合課税)です。給与などほかの所得と合算したうえで税率が決まるため、所得税と住民税を合わせると最大で約55%になります。

さらに、相続で取得した暗号資産の取得価額は、被相続人が持っていた金額をそのまま引き継ぎます。被相続人が安く買っていた場合、その差額がまるごと相続人の利益として課税されるということです。

そして見落とされやすいのが、取得費加算の特例が使えないことです。相続税を払った財産を一定期間内に売ったときに、相続税の一部を取得費に加算できるこの特例は、譲渡所得を対象としたものです。雑所得となる暗号資産には適用できません。

モデルケースで見てみます

前提は、亡くなった日の評価額が1,000万円の暗号資産で、被相続人の取得価額が200万円。相続人がこれを1,000万円で売却し、その相続人にはほかに課税所得が500万円ある場合です。

  • 雑所得:1,000万円 − 200万円 = 800万円
  • 所得税の増加分:約218万円(課税所得が500万円から1,300万円になり、適用される税率が20%から33%に上がります)
  • 復興特別所得税:約5万円
  • 住民税:80万円
  • 合計:約302万円(売却益の約38%)

これは相続税とは別にかかる税金です。同じ1,000万円の暗号資産に、相続税もかかっています。

※ 実際にお受けした複数のご相談をもとに再構成したモデルケースです。ほかの所得や控除の状況によって税額は変わります。

これから変わる予定です

令和8年度の税制改正では、一定の暗号資産の譲渡益について、ほかの所得と分離して20%(所得税15%・住民税5%)で課税する方向が示されています。適用の開始時期は金融商品取引法の改正法の施行に合わせるとされており、2026年8月時点ではまだ総合課税のままです。上のモデルケースに単純に20%を当てはめると160万円ですので、「いつ売るか」で負担が変わってくる可能性があります。

財産ではないもの——サブスク・電子マネー・SNS

財産ではなくても、放置するとご家族が困るものがあります。

  • サブスクリプション:解約しなければ引き落としが続きます。カードを止めても請求が残ることがあります
  • 電子マネー:残高の払い戻しの扱いは事業者ごとに異なります。相続人からの払い戻し請求に応じている事業者もあります
  • ポイント・マイル:相続を認めていないものが多い一方、所定の手続きで承継できるものもあります
  • SNS・クラウド:追悼アカウントへの切り替えや削除の申請ができるサービスがあります。預けた写真はご家族にとっての思い出でもあります

実践のポイント

  1. 金融機関の「名前だけ」の一覧を作る:残高や暗証番号は書かなくて構いません。どこに口座があるかが分かれば、ご家族は残高証明書を請求できます
  2. スマホとパソコンのロック解除方法を、1つだけ紙で残す:デジタル遺産の入口はほぼここに集まっています。保管場所は、遺言書や実印と同じ場所が分かりやすいです
  3. 引き落としを1つの口座にまとめる:通帳の履歴がそのまま財産目録の代わりになります
  4. 暗号資産は「取引所か、自分で管理しているか」を書き残す:取引所であれば相続手続きの窓口があります。自分のウォレットで管理している場合、復元用の情報がなければご家族は取り出せません
  5. 遺言書を作るなら、デジタル資産も本文に入れる:「〇〇銀行の預金」と書くのと同じように書けます。書き方は「遺言書の種類と書き方」の回をご覧ください

まとめ

デジタル遺産の問題は、税金の計算より前の「見つける」段階にあります。存在に気づけなければ申告漏れになり、気づいても取り出せなければ納税資金にできません。しかも相続税の申告期限は10か月しかありません。

逆にいえば、口座のある金融機関の名前を並べた紙1枚があれば、ご家族はそこから動き出せます。財産の中身を明かす必要はありません。終活の進め方については【名古屋市昭和区】の終活事情の回もあわせてご覧ください。

ネット銀行や暗号資産があるかもしれない、という段階のご相談で構いません。手がかりの探し方から、相続税の評価、売却したときの税金まで、順番に整理させていただきます。

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本コラムは2026年8月時点の法令等にもとづく一般的な情報提供を目的としており、個別の税務相談ではありません。実際の取り扱いは個別の事情によって異なる場合がありますので、具体的な判断にあたっては税理士等の専門家にご相談ください。

通帳のない財産は、書き残すことでしか引き継げません。紙1枚の準備から、私たちがお手伝いします。

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