養子縁組と相続税|節税効果と法定相続人の数え方

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「孫を養子にすると相続税が下がる」——相続の相談をお受けしていると、この話をどこかで聞いてこられる方が毎年いらっしゃいます。実際、養子縁組は相続税の計算に確かな効き目があります。ただ、効き目があるぶん、税法の側にも歯止めが用意されています。

養子縁組は、税金の手続きではなく、家族の形そのものを変える手続きです。数字だけを見て決めてしまうと、あとから戻すのが難しい問題を抱え込むことがあります。この回では、養子縁組で相続税がどう変わるのかを計算例で確かめたうえで、実務でいつも確認している注意点まで整理します。

目次

養子を1人増やすと、なぜ相続税が下がるのか

相続税の計算には、「法定相続人の数」で金額が決まる項目が4つあります。国税庁も、この4項目を明示しています。

  • 相続税の基礎控除額 3,000万円+(600万円×法定相続人の数)
  • 生命保険金の非課税限度額 500万円×法定相続人の数
  • 死亡退職金の非課税限度額 500万円×法定相続人の数
  • 相続税の総額の計算 法定相続分で按分してから税率をかけるため、人数が増えるほど1人あたりの取得金額が下がり、低い税率が適用されやすくなります

養子は、民法上「縁組の日から養親の嫡出子の身分を取得する」とされています(民法809条)。つまり実子とまったく同じ相続人です。ですから養子が1人増えれば、上の4項目がそろって動きます。基礎控除の考え方は「相続税の基礎控除とは?」の回、生命保険の枠については「生命保険を活用した相続税対策」の回でも解説しています。

数えられる養子の数には上限があります

実子がいるかどうかで、1人までか2人までか

養子を何人迎えても、相続税の計算で法定相続人の数に含められるのは次の人数までです。

  • 被相続人に実の子供がいる場合……養子は1人まで
  • 被相続人に実の子供がいない場合……養子は2人まで

たとえば実子が2人いる方が養子を2人迎えても、相続税の計算上の法定相続人は「実子2人+養子1人=3人」です。4人にはなりません。基礎控除も4,800万円のままで、それ以上は増えません。

「実子として扱われる人」は、この上限の外です

次のいずれかに当てはまる人は実の子供として取り扱われ、人数制限を受けずに全員が法定相続人の数に含まれます。

  • 被相続人との特別養子縁組により養子となっている人
  • 被相続人の配偶者の実の子供で、被相続人の養子となっている人(いわゆる連れ子養子)
  • 被相続人と配偶者の結婚前に特別養子縁組でその配偶者の養子となっていた人で、結婚後に被相続人の養子となった人
  • 被相続人の実の子供・養子・直系卑属がすでに死亡しているか相続権を失ったため、代わって相続人となった直系卑属(代襲相続人)

再婚のご家庭では、ここが効いてきます。配偶者の連れ子は、養子縁組をしていなければ相続人になりません。縁組をすれば相続人になり、しかも人数制限の対象外です。「うちは再婚で子が3人、うち2人は妻の連れ子」といったご家庭では、縁組の有無で結論が大きく変わります。

どのくらい変わるのか——課税価格2億円のモデルケース

孫を1人養子に迎えた場合を、具体的な数字で見てみます。

前提

  • 課税価格の合計額 2億円
  • 案A:相続人は実子2人(長男・長女)
  • 案B:実子2人に加え、長男の子(孫)1人を養子に迎えた
  • いずれも法定相続分どおりに取得したものとします
  案A 実子2人 案B 実子2人+孫養子1人
法定相続人の数 2人 3人
基礎控除額 4,200万円 4,800万円
課税遺産総額 1億5,800万円 1億5,200万円
生命保険金の非課税枠 1,000万円 1,500万円
相続税の総額 3,340万円 約2,460万円

差は約880万円です。数字だけを見れば、たしかに大きな効き目があります。ただし、この表にはまだ載っていない加算があります。

見落とされやすい3つの落とし穴

① 孫を養子にすると、その人の相続税は2割増しになります

被相続人の一親等の血族と配偶者以外の人が財産を取得した場合、その人の相続税額に2割が加算されます。養子は一親等の法定血族ですから、原則として加算の対象になりません。ところが、被相続人の孫が養子になっている場合は別です。子が先に亡くなって孫が代襲相続人になっているときを除き、2割加算の対象になります。

さきほどの案Bに、この加算を反映します。

案B 納める人ごとの税額 加算前 加算後
長男 約820万円 約820万円
長女 約820万円 約820万円
孫養子(2割加算) 約820万円 約984万円
合計 約2,460万円 約2,624万円

案Aの3,340万円と比べた差は、880万円ではなく約716万円になりました。それでも減ってはいます。加えて孫養子には、子から孫へ渡るときの相続を1回省けるという効き目があります。2割加算を払ってでも一代飛ばしたほうが、二代を通した負担は軽くなることが多い——これが孫養子が使われる本当の理由です。

② 「不当に減少させる」と判断されれば、数に入れられません

養子の数を法定相続人の数に含めることで相続税の負担を不当に減少させる結果となると認められる場合、その原因となる養子は人数に含めることができません(相続税法63条)。相続の直前に、それまで交流のなかった方を形だけ養子にしたようなケースが典型です。

養子縁組そのものが無効になるわけではありません。あくまで相続税の計算上、人数に数えないという扱いです。それでも、想定していた基礎控除が使えなくなれば、納税資金の計画は崩れます。

③ 民法上の相続分は制限されません——分け方でもめる火種になります

ここは誤解が多いところです。人数の上限は「相続税の計算上」の話であって、民法上の相続分には上限がありません。

実子2人の方が養子を2人迎えた場合、相続税の法定相続人の数は3人止まりですが、実際に遺産を分けるときの相続人は4人です。実子ひとりの法定相続分は2分の1から4分の1へ、半分に減ります。遺留分も同じように減ります。

「税金のために」と始めた縁組が、きょうだい間の対立を生むことがあります。養子縁組を検討するときは、税額の試算と同時に、遺言書で分け方まで決めておくことをおすすめしています。書き方は「遺言書の種類と書き方」の回をご覧ください。

普通養子縁組と特別養子縁組は別の制度です

相続の実務で出てくる養子縁組は、ほとんどが普通養子縁組です。孫養子も、子の配偶者を養子にする場合も、連れ子養子も、通常はこちらにあたります。

  • 普通養子縁組……養親の嫡出子になると同時に、実の親との親族関係も続きます。つまり養親からも実親からも相続する立場になります。養親は20歳以上であること、尊属や年長者は養子にできないこと(民法792条・793条)などの要件があります。未成年者を養子にするには家庭裁判所の許可が必要ですが、自分や配偶者の直系卑属(孫や連れ子)を養子にする場合は許可が不要です(民法798条)。
  • 特別養子縁組……家庭裁判所の審判で成立し、実の父母やその血族との親族関係が終了します(民法817条の2・817条の9)。原則として請求のときに15歳未満であることが必要で、子の福祉のための制度です。相続税では実子として扱われます。

普通養子縁組は市区町村への届出で成立し、証人2人がいれば手続き自体は簡単です。ただし、解消(離縁)は当事者双方の合意が要ります。合意できなければ家庭裁判所の調停・裁判になります。「とりあえず入れておいて、あとで外せばいい」という性質のものではありません。

実践のポイント

  1. まず「実子がいるか」を確認する。いれば1人まで、いなければ2人まで。ここを取り違えると試算が根本から狂います。
  2. 孫養子は2割加算とセットで比べる。一次相続の税額だけでなく、子から孫への相続まで含めた二代分で並べないと、有利かどうかは判断できません。
  3. 縁組の前に、分け方を決めておく。相続分と遺留分が動きます。関係者全員に説明し、遺言書に落とすところまでを一続きの作業として進めます。
  4. 他の対策と比べてから決める。生命保険の非課税枠、生前贈与、小規模宅地等の特例など、家族構成を変えずにできることは他にもあります。生前の相続対策のページに、当事務所での進め方をまとめています。

まとめ

養子縁組は、基礎控除・生命保険金と死亡退職金の非課税枠・相続税の総額という4つの計算に同時に効きます。今回のモデルケースでは、孫を1人養子に迎えることで負担が約716万円減りました。効き目は本物です。

一方で、数えられる人数には上限があり、孫養子には2割加算があり、不当に負担を減らすと認められれば数に入れてもらえません。そして何より、相続分と遺留分が動き、家族の関係そのものが変わります。

配偶者の税額軽減や二次相続の見通しと合わせて考えると、答えはご家庭ごとに変わります。二次相続の考え方は「配偶者の税額軽減とは?」の回もあわせてご覧ください。

「孫を養子にしたほうがいいと言われたのですが」という段階のご相談で構いません。養子縁組をした場合としなかった場合の税額を、二次相続まで含めて並べてお示しします。そのうえで、他の対策と比べて本当に必要かどうかを一緒に確かめます。

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本コラムは2026年9月時点の法令等にもとづく一般的な情報提供を目的としており、個別の税務相談ではありません。計算例はモデルケースであり、小規模宅地等の特例その他の特例や税額控除は考慮していません。実際の取り扱いは個別の事情によって異なる場合がありますので、具体的な判断にあたっては税理士等の専門家にご相談ください。

家族の形を変える前に、数字と気持ちの両方を並べて確かめましょう。

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