「申告が終わって1年以上たつのに、税務署から『ご自宅にうかがいたい』と電話がありました。何かまずかったのでしょうか」。相続税の申告を済ませたご家族から、こうしたご相談をいただくことがあります。
相続税は、実際に調査に来たケースの8割以上で申告漏れが見つかる税金です。ただ、調査の連絡が来たこと自体は「悪いことをした」という意味ではありません。今回は、最新の統計で調査の実態を確かめたうえで、調査の流れと、申告の前からできる準備を整理します。
数字で見る相続税の税務調査
国税庁と各国税局は、毎年12月に前の事務年度(7月から翌年6月まで)の調査結果を公表しています。いちばん新しい令和6事務年度(2024年7月〜2025年6月)の数字は次のとおりです。
| 項目 | 全国 | 名古屋国税局 |
|---|---|---|
| 実地調査の件数 | 9,512件 | 1,345件 |
| 申告漏れなどが見つかった割合 | 82.3% | 84.3% |
| 1件あたりの追徴税額(加算税を含む) | 867万円 | 797万円 |
| 文書・電話などによる「簡易な接触」 | 21,969件 | 2,575件 |
※名古屋国税局は愛知・岐阜・三重・静岡の4県を受け持っています。出典:国税庁・名古屋国税局「令和6事務年度における相続税の調査等の状況」(令和7年12月公表)。
ポイント:実地調査は、すべての申告から無作為に選ばれるわけではありません。税務署が手元の資料と申告書を照らし合わせ、「漏れがありそうだ」と見込んだご家庭を選んで訪問します。8割を超える数字は、その見込みが当たっていることを示しています。
調査には「実地調査」と「簡易な接触」の2種類がある
実地調査は、調査官がご自宅などを訪れて行う調査です。これに対して簡易な接触は、文書や電話、税務署への来署のお願いによって、計算の誤りや申告漏れの見直しを求めるものです。全国では簡易な接触が2万件を超え、実地調査の2倍以上の件数になっています。
簡易な接触でも、指摘に心当たりがあれば修正申告をすることになります。お尋ねの文書が届いたら放置せず、申告をお願いした税理士にすぐ見せてください。
どんな申告が調査の対象になりやすいのか
税務署は、亡くなった方の過去の所得税の申告や、金融機関への照会で得た情報などをもとに、申告された財産が生前の収入や暮らしぶりに比べて少なすぎないかを見ています。とくに次のようなケースは、確認の対象になりやすいといわれます。
- 収入の多かった方なのに、申告された預金が少ない
- 亡くなる前に、まとまった額の預金の引き出しがある
- 配偶者や子・孫の名義の預金が多い(いわゆる名義預金)
- 生前に家族へまとまったお金を渡している
- 遺産が基礎控除(相続税の基礎控除とは?)を超えているのに、申告をしていない
申告漏れの財産として目立つのは、現金・預貯金です。土地や建物と違って動かしやすく、家族の名義に分かれていることも多いためです。ネット銀行やネット証券のように通帳がない口座も、見落とされやすい財産です(デジタル遺産の相続)。
実地調査の流れ
| 段階 | 何が起きるか |
|---|---|
| ① 事前の連絡 | 税務署から、調査の日時・場所・対象となる税目や期間などが連絡されます(国税通則法第74条の9)。税理士に申告を依頼していれば、税理士にも連絡が入ります。日程は相談して変えられます。 |
| ② 調査の当日 | 多くは1日で、ご自宅で話を聞かれます。亡くなった方の経歴や趣味、お金の管理を誰がしていたか、通帳・印鑑・金庫の置き場所などを確認されます。 |
| ③ 当日のあと | 持ち帰った資料の検討や金融機関への照会が行われ、追加の資料を求められることがあります。 |
| ④ 結果の説明 | 問題がなければ、その旨の通知があって終わります(同法第74条の11第1項)。申告漏れがあれば内容の説明を受け、修正申告をするかどうかを判断します。 |
当日の質問は世間話のように始まることが多いのですが、「生活費はどの口座から出していましたか」「お子さんへのお金の援助はありましたか」といった質問は、名義預金や生前贈与の確認につながっています。分からないことは推測で答えず、「確認してからお答えします」と伝えてかまいません。
申告漏れが見つかったときのペナルティ
申告漏れがあると、不足していた相続税に加えて加算税と延滞税がかかります。加算税の割合は、いつ修正したかと、財産を隠したり偽ったりしたかどうかで変わります。
| 修正したタイミング | 申告していた場合 | 申告していなかった場合 |
|---|---|---|
| 調査の連絡より前に、自分で | かからない | 5% |
| 連絡のあと、指摘を受ける前に | 5〜10% | 10〜25% |
| 調査で指摘を受けて | 10〜15% | 15〜30% |
| 財産を隠した・偽った | 35% | 40% |
※「申告していた場合」は過少申告加算税、「申告していなかった場合」は無申告加算税、最後の行は重加算税です(国税通則法第65条・第66条・第68条)。割合に幅があるのは、増えた税額のうち一定の金額を超える部分に高い割合がかかるためです。延滞税は、本来の納期限の翌日から納めた日までの日数に応じてかかります。
表のとおり、税務署から連絡が来る前に自分で誤りに気づいて直せば、過少申告加算税はかかりません。申告のあとで財産の漏れに気づいたら、早めに修正するのが一番の対策です。期限までに申告しなかった場合の対処は相続税の申告期限は10か月でまとめています。
なお、税務署が税額を見直せる期間は、原則として申告期限から5年(偽りその他不正の行為があった場合は7年)です(同法第70条)。
実践のポイント|申告の前からできる5つの準備
- 通帳を数年さかのぼって確認する:亡くなった方の口座から、まとまった出金があれば何に使ったかをメモと領収書で残しておきます。使い道を説明できないと、「現金で手元に残っているのでは」と見られます。
- 家族名義の預金を洗い出す:お金を出したのは誰か、通帳と印鑑を誰が管理していたかを確認します。実質的に亡くなった方のお金であれば、名義にかかわらず相続財産として申告が必要です。
- 生前贈与の記録をそろえる:贈与契約書や振込の記録があれば、贈与が成り立っていたことを説明しやすくなります。亡くなる前の一定期間(3年から段階的に7年へ延長中)の贈与は相続財産に足し戻す点にも注意が必要です(暦年贈与と相続時精算課税の使い分け)。
- 書面添付制度について税理士に確認する:税理士が、どんな資料をどう確認して申告書を作ったかを書いた書面を、申告書に添付する制度があります(税理士法第33条の2)。添付があると、税務署は調査の連絡の前に税理士の意見を聞く機会を設けることになっており(同法第35条)、そこで疑問が解ければ実地調査に進まないこともあります。
- 調査の連絡が来たら、ひとりで対応しない:連絡を受けたら、まず申告をお願いした税理士に知らせます。当日は税理士が立ち会い、質問の意図を確かめながら答えることができます。
まとめ
相続税の実地調査では、8割を超えるケースで申告漏れが見つかっています。ただ、指摘の多くは預金の動きや家族名義の預金など、申告の前に確認しておけば説明できたものです。調査を必要以上に怖がるより、通帳の動きと家族のお金の流れを申告前に整理しておくこと。それがいちばんの準備になります。税理士に頼むと何が変わるかは税理士に相続を依頼するメリットでまとめています。
調査で聞かれそうなことを、申告の前に一緒に確認します。通帳の動きや家族名義の預金の扱いなど、ご家庭ごとに説明を用意しておくべき点を、初回面談の中で整理します。申告のあとに税務署から連絡が来た場合も、まずはお問い合わせください。
初回面談は無料です。南山税理士事務所は名古屋市昭和区、地下鉄鶴舞線・いりなか駅1番出口から徒歩1分。ご相談から申告まで、代表税理士が直接担当いたします。
本コラムは2026年11月時点の法令等にもとづく一般的な情報提供を目的としており、個別の税務相談ではありません。統計は国税庁・名古屋国税局の公表資料(令和6事務年度)によります。
税務調査への備えは、申告の前から始まっています。調べられても説明できる申告を、一緒に準備しましょう。

