「長男が家を建てたいと言っているので、隣の土地を渡したい。あげるのと売るのと、どちらが得ですか?」。不動産をお持ちのご家庭から、初回面談でよくいただく質問です。
結論から言うと、「どちらが得か」は税金の額だけでは決まりません。贈与なら子どもに贈与税、売買なら親に所得税がかかり、どちらにも登記と取得の税金がついてきます。さらに、何もせず「相続まで待つ」という選択肢もあります。今回は、この3つの渡し方を同じ土地で並べて、向き・不向きを整理します。
不動産を子どもに渡す3つの方法と、かかる税金
同じ土地でも、渡し方によって「誰に」「どの税金が」かかるかが変わります。
| 渡し方 | 誰に | 主な税金 |
|---|---|---|
| 贈与 | 子ども | 贈与税・登録免許税(2%)・不動産取得税 |
| 売買 | 親/子ども | 親に譲渡所得の所得税・住民税。子どもに登録免許税(土地は1.5%)・不動産取得税 |
| 相続 | 子ども | 相続税(財産全体で計算)・登録免許税(0.4%)。不動産取得税はかからない |
登録免許税と不動産取得税は、売買価格ではなく固定資産税評価額をもとに計算します。土地の売買の1.5%は令和11年3月31日まで、不動産取得税の土地の税率3%と、宅地の課税標準を2分の1にする特例は令和9年3月31日までの措置です。
モデルケースで並べてみる
次のような土地で比べてみます(モデルケース)。
- 父(75歳)が昔購入した宅地。購入時の金額は分からない
- 実際に売れる値段(時価):3,000万円
- 相続税評価額(路線価による評価):2,400万円
- 固定資産税評価額:2,100万円
- 受け取るのは長男(45歳)
| 渡し方 | 本体の税金 | 登記・取得の税金 |
|---|---|---|
| 暦年贈与 | 贈与税 約765万円 | 登録免許税 42万円+不動産取得税 約31万円 |
| 精算課税 | 贈与税 0円 | 同上。ただし相続のときに2,290万円を相続財産に足し戻す |
| 売買 | 父の所得税等 約579万円(時価3,000万円で売却) | 登録免許税 約31万円+不動産取得税 約31万円 |
| 相続 | 相続税(財産全体による) | 登録免許税 約8万円。不動産取得税なし |
※暦年課税は(2,400万円−110万円)に特例税率を当てて計算。売買は、取得費が分からないため売却代金の5%を取得費とし、長期譲渡(20.315%)で計算しています。不動産取得税は宅地の特例(課税標準2分の1・税率3%)を適用。住宅を建てる場合の軽減や、各種の特例は考慮していません。
ポイント:表だけ見ると「精算課税の贈与が安い」と見えますが、精算課税は税金がなくなる制度ではなく、相続のときに精算する制度です。売買も、父の手元に3,000万円の現金が残るので、相続財産は「土地」が「現金」に変わるだけです。今かかる税金と、相続のときにかかる税金をセットで見る必要があります。
贈与が向くケースと注意点
向いているのは「これから値上がりする」「収益を子どもに移したい」不動産
相続時精算課税で贈与した財産は、相続のときに贈与した時の価額で足し戻されます。贈与のあとに値上がりしても、増えた分は相続税の対象になりません。また、賃貸物件を贈与すれば、その後の家賃収入は子どもの収入になり、親の手元に現金がたまり続けることを防げます。暦年課税と精算課税の違いは、暦年贈与と相続時精算課税の使い分けでまとめています。
注意点:小規模宅地等の特例が使えなくなる
相続時精算課税で贈与した宅地は、相続のときに小規模宅地等の特例の対象になりません。自宅の敷地のように、相続まで持っていれば評価を最大80%下げられた土地を贈与すると、かえって不利になることがあります(小規模宅地等の特例の要件と注意点)。また、精算課税は一度選ぶと、その親からの贈与について暦年課税に戻れません。
売買が向くケースと注意点
向いているのは「親が現金を必要としている」「子どもに買う資金がある」場合
売買なら贈与税はかからず、親は老後の資金や納税資金として現金を手にできます。子どもにとっては支払った金額がそのまま取得費になるため、将来その土地を売るときの税金が軽くなる面もあります。贈与や相続で受け取った土地は、親が買ったときの取得費と時期を引き継ぐのとは対照的です。
注意点:安く売ると、差額が贈与になる
親子だからと相場より安く売ると、時価との差額は贈与を受けたものとみなされます(相続税法第7条)。土地や建物の場合、この「時価」は相続税評価額ではなく、通常の取引価額です。モデルケースで相続税評価額の2,400万円で売れば、差額600万円が贈与とされ、約68万円の贈与税がかかるおそれがあります。
また、子どもの購入資金を親が出したり、返すあてのない分割払いにしたりすると、実質的には贈与と判断されます。売買を選ぶなら、価格の根拠と、子ども自身の資金で払っていることを書類で説明できるようにしておくことが欠かせません。
「相続まで待つ」も立派な選択肢
相続で受け取れば、不動産取得税はかからず、登録免許税も0.4%で済みます。自宅の敷地なら小規模宅地等の特例を使える可能性もあります。生前に動かすのは、相続まで待つよりも有利になる理由がはっきりしているときです。
ただし、待つ場合は「誰がその土地を受け取るか」を遺言で決めておくことをおすすめします。生前の約束だけでは、相続のときに他の兄弟姉妹との話し合いがまとまらないことがあります。土地の評価の基本は不動産の相続税評価額はどう決まる?をご覧ください。
実践のポイント
- まず、渡す目的をはっきりさせる:家を建てるためか、家賃収入を移すためか、親が現金を必要としているのか。目的によって選ぶ方法が変わります。
- 3つの評価額を手元にそろえる:時価・相続税評価額・固定資産税評価額。どの税金がどの数字で計算されるかが違います。
- 今の税金と、相続のときの税金を並べて比べる:贈与・売買・相続のそれぞれで、親の相続税まで含めた合計で判断します。
- 小規模宅地等の特例が使える土地かを確認する:使える土地を生前に動かすと、損になることがあります。
- 売買なら、価格と資金の出どころを書類に残す:安すぎる価格や親の資金での購入は、贈与とみなされる原因になります。
まとめ
不動産を子どもに渡す方法は、贈与・売買・相続の3つです。贈与は将来の値上がりや収益を子どもに移したいとき、売買は親が現金を必要とし子どもに資金があるときに向いています。どちらにも当てはまらなければ、相続まで待つほうが税金も手間も少なく済むことがあります。大切なのは、今かかる税金だけでなく、相続のときの税金まで含めて比べることです。
「この土地は、贈与・売買・相続のどれがいいか」を、ご家庭の財産全体で比べます。評価額の確認から、3つの方法で税金がどう変わるかの試算まで、初回面談の中でご案内します。登記が必要な場合は、司法書士と連携して進めます。
初回面談は無料です。南山税理士事務所は名古屋市昭和区、地下鉄鶴舞線・いりなか駅1番出口から徒歩1分。ご相談から申告まで、代表税理士が直接担当いたします。
本コラムは2026年10月時点の法令等にもとづく一般的な情報提供を目的としており、個別の税務相談ではありません。金額はモデルケースによる概算で、実際の税額は財産の内容や適用できる特例によって異なります。
不動産は、渡し方ひとつで税金も家族の納得感も変わります。一番よい渡し方を、一緒に比べて決めましょう。

